勝五郎の読書雑記

生麦事件

吉村 昭 (著)
★★★★★

これまで読んだ吉村昭作品の中で一番面白かった「漂流」を超えた面白さ。

文久二年(1962年)に起きた生麦事件(島津久光の行列に割り込んだイギリス商人を薩摩藩士が殺傷したことに端を発した藩・幕・英3者による大騒動)から長州藩による英仏艦船砲撃・薩英戦争・七卿落ち・禁門の変・第一次長州征討・四ヵ国連合艦隊下関砲撃・第二次長州征討・薩長同盟・大政奉還・龍馬暗殺・王政復古の大号令・鳥羽伏見の戦い・江戸城無血開城・明治改元までの6年間を描いた幕末歴史小説の神髄。(薩長同盟以降はかなり駆け足)

ただし6年間を描いたといっても重点を置いているのはタイトルの(1)生麦事件と(2)長州の英仏艦船砲撃、(3)薩英戦争、(4)四ヵ国連合艦隊下関砲撃の4つの事件における薩長両藩と連合国(おもに英国)、幕府の動きで、高校の歴史の時間に上っ面だけ学んだ各事件の発端から事後処理(和解・賠償交渉)までをドキュメンタリータッチで楽しめた。

直情径行型の若い(青い)長州藩と練達で大人の対応をする薩摩藩、その薩摩藩の上をいく老獪さをみせる英国、その三者に挟まれてとばっちりを受け難儀する幕府のそれぞれにぞくするすべての人間が涙が出るほど必死で、文字通り命を懸けて右往左往する姿に深く感銘を受ける。

生麦事件の賠償交渉を遂に成し遂げる薩摩の重野が異様に渋く、薩英戦争の発端に藩の虎の子の艦船3隻を失った責任の追求から逃れるため姿をくらます、同じく薩摩藩の松木と五代がともに人間味あふれている。

「あとがき」と演劇評論家渡辺保氏による「解説」も短文ながら読み手を唸らせるが、それ以上に本編のエンディングは抒情的で趣き深い。アッバスキアロスタミの秀作「友だちのうちはどこ?」(イラン映画)を観た後の幸せ感がよみがえった。
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by furomikan | 2011-02-20 19:03 | 読書雑記 | Comments(0)