勝五郎の読書雑記

金星を追いかけて

アンドレア・ウルフ (著), 矢羽野 薫 (翻訳)
★★★★☆

去年の6月6日に金星の日面経過(太陽面通過)を見たときには、250年も前にこの天体現象にこれほどの情熱をかけていた人達がいたとは思ってもいなかった。

世界で初めて金星の日面経過を観測したのはジェレマイア・ホロックスという英国の天文学者で、それは1639年12月4日のことだったという。
その17年後に生まれた、同じく英国のエドモンド・ハレー(ハレー彗星で有名)が1716年に発表した論文で後輩たちに呼びかけたのが次回の金星の日面経過の観察プロジェクトだった。

金星の日面経過は基本的に8年おきの2回がひと組になっていて、それが100年以上の間隔で起きる。
1639年12月4日のあとはこんな感じ。

1761年6月6日と1769年6月3日
1874年12月9日と1882年12月6日
2004年6月8日と2012年6月6日
2117年12月11日と2125年12月8日

ハレーが論文で呼びかけた時代、例えば地球と木星の距離は地球と太陽の距離の約5倍ということまでは解っていたが、絶対的な距離までは掴めていなかった。
でも地球の北半球・南半球のいろいろなところで金星の日面経過を観測すれば、太陽系の正確な大きさが計算できるのだということをハレーは訴えたのだった。

その号令を受けて、西洋の科学者・天文学者が必死になって、文字通り命懸けで1761年と1769年の日面経過を観測する(同時に極寒の奥地や南半球の大洋へ大冒険する)様子が描かれているのが本書である。

「世界各地で天文学者はそれぞれ最後の準備に追われながら、一大事業のもとに集結していた。国籍も宗教もバラバラで、数千キロの旅をした者もいれば自国にいる者もいて、長さ七・五メートルの望遠鏡もあれば手で持てる大きさの望遠鏡もあった。しかし全員が、共通の目的を目指していた。七年戦争の真っただ中にありながら、天文学者は科学と知識の名のもとに、国境も戦闘も乗り越えた。金星の日面経過が始まるまで数時間。あとは天気が味方してくれることを祈るしかなかった。」

一番印象に残ったのは唯一人、1761年と1769年の2回、金星の太陽面への入りと出の両方を観測したフランスの天文学者シャップ・ドートロシュという人である。
2回目の観測成功の8日後、バハ・カリフォルニアの観測地に蔓延していたチフスに罹り、死を覚悟するが、その一週間後の6月18日に起きる月食を観測しないと自分の居る地の経度が確定できず、その確定経度が分からなければ日面経過で得られた数値も使い物にならないということで、高熱・頭痛に打ち勝って月食を観測しきった。(その後、8月1日に47歳で死去。)

本の内容というよりは、これらの事実があったということに感動した。
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by furomikan | 2013-02-14 23:59 | 読書雑記 | Comments(0)